D2Cビジネスが増殖する本当の理由とは?
大手小売で新規事業開発や構造改革プロジェクトなど経営回りの泥臭い仕事をやってます。
実体験から学んだことを発信したいと思います。1つでも世の中の為になったら幸いです。
前回は、小売業者が無くならないワケについてまとめました。
今回の記事では、生産者視点で更に突っ込んでみたいと思います。
この記事の結論
- D2Cビジネスは消費の多様性に対応するための手段
- D2Cを支えるIT関連企業の思惑が存在する
- メガプラットフォーマーによって時流が作られている
それでは、さっそく進めていきたいと思います。
D2Cの流行りはどこから来たのか?
まずは現実を正しく捉える必要があります。
そもそも何故D2Cビジネスが増加しているのでしょうか?
「ネットやSNS環境が充実し、直接ユーザと繋がるハードルが下がったから。」
恐らくこれが一般的な回答ではないでしょうか。
もちろんマクロ環境においてその回答は間違えないでしょう。
個人的にはもう少し本質的で構造的な背景まで深堀りたいです。
まずは結論です。
- 消費の多様化でブランドの収益性が低下した。
- ウェブ開発やマーケティング支援という新しいビジネスが登場した。
- グローバルメガプラットフォーマーの存在感が増した。
それでは、詳しく説明していきます。
そもそも従来通り小売業者を通じてビジネスをすることがブランドにとって最も合理的であれば、つまりブランド側の収益性が最大化できるのならば、わざわざ自ら手間とリスクを増やして活動する必要はないと考えるのが妥当です。
ここでの『手間とリスク』とは、直接ユーザと繋がることで発生するものを指します。
小売業者の仕事を内製化すれば、必ずコストとリスクが発生します。
やはり、そうまでする理由がどこかしらにあるのでしょう。
だからこそブランドサイドはビジネス転換を考える必要があったわけです。
その要因こそがポイントの①だと考えています。
消費の多様化でブランドの収益性が低下した。
ネット以前には消費トレンドがある程度予測できました。
需給予測がしやすいので、商品は大ロットでの生産が可能でした。
ロットとは、1回あたりの生産数量のことです。
服を1ロット100枚と言ったら1回の製造で生産される服が100着だという意味です。
大ロット生産は、製造原価が下がるため利益率が高まるメリットがあります。
それに対して、ネット以後、消費者ニーズが多様化するに従って、その原理が崩壊してしまいました。
『トレンド商品』と呼ばれる売上を牽引するアイテムが不在になりました。
どんな商品がハマるかが分からないため、取り扱い商品を増やして検証する必要が出てきます。
要するに、顧客ニーズを探るためにブランドは多品種少量生産にシフトせざるをえなくなりました。
多品種少量生産では、小ロットなので製造原価は上がるので利益率が低下します。
更には、生産しても売れ残るリスクも同時に増えるわけです。
つまり、多品種少量生産によって生産と在庫コストが上がってしまったということです。
私も婦人靴のプライベートブランドを担当し、商品開発から販促・在庫管理を一気通貫でマネジメントしていたことがあります。
やはりどんなデザインが売れるのか?をリサーチしても明確な答えは出ませんでした。
顧客ニーズを把握できなければ商品開発ができません。
もちろんオーバーサイズのファッションが人気だとかスニーカーが流行っているといった大枠のトレンドは存在するので、仮説は作ることができますが、大ロット生産に踏み切れるほどの確証は得られません。
そのため、まずは小ロットで販売して、売れた商品だけに追加生産をかける。
生産の頻度を細分化してリアルな需要を追いかけるように運営することが増えていきました。
これをやると在庫リスクは最小限に抑えることができますが、生産ごとに発生する工場とのやり取りなどの業務工数は増えてしまいます。
小ロット複数生産の結果、商品原価と販促費は高止まりして収益が圧迫されてしまったんです。
これと同じ現象があらゆるメーカーにも起きてるわけです。
そうなれば、ブランド経営者はこう思いますよね。
「このままだと赤字に転落。消費者のニーズをより的確に捉えて、お客さま一人ひとりにあった商品提案を強化していかなければ。」と。
そこにタイミング良くお客さまと繋がる場、つまりマーケティング環境があれば、それを経営戦略にしたい気持ちはとてもよく分かります。
それこそがネット、そしてSNSです。
ここでポイントの②に繋がっていきます。
ウェブ開発やマーケティング支援という新しいビジネスが登場した。
オフライン産業であるブランドメーカーはネットビジネスなんてよく分かりません。
非ITというコンプレックスがありますから、システム開発ベンダーやマーケティング支援会社に力を借りたいと思うでしょう。
IT企業はIT企業で、ITスキルがあっても自ら商売をするのは非常に難易度が高く、ネット世界においても事業会社で成功するのはほんの一握りです。
そのため、ITスキルのある人は、ITスキルのない人の手伝いをした方が確実に食べていけるでしょう。
これがマーケティング支援、システムコンサルというビジネスです。
ITノウハウのないブランドメーカーにIT企業が支援をする形が出来上がりますよね。
ウェブ開発ベンダーやマーケティング支援の会社は、自社の売上を伸ばすためにネットの素晴らしさを宣伝し、ブランドに対してデジタルトランスフォーメーションを促していきます。
「顧客とダイレクトにコミュニケーションが取れることで、消費者ニーズが数値化される。最適な需給予測によって収益性が最大化される。」と。
決して、これが悪いと言っているわけではありません。
お互い本気で会社のため、世間のため、消費者のため、と思って真剣に取り組んできた結果だと感じています。
しかし、私は失敗も多く見てきました。
ビジネスにおいて重要な機能がアウトソースされて、ベンダーやコンサルに依存している状態をコントロールしつづけることは非常に難しいと感じています。
個人的には、かなり歪な形のように感じています。
D2Cがスケールしない本質もここに隠されているわけですが、まずはそもそも、そういう時流はなぜ生まれたのか?という一番根っこの部分まで掘り下げたいとおもいます。
それが③に繋がるというわけです。
グローバルメガプラットフォーマーの存在感が増した
グーグル、Facebook、インスタグラム、ユーチューブ、LINEなどが代表例でしょうか。
彼らは、C2Cの世界を無料で提供しています。
私たちは検索エンジンや動画コンテンツ、アプリを無料で使えていますよね。
ただ、彼らの本当の顧客は法人です。
ブランドやメーカーに、自身のプラットフォーム上でアカウントを開いてもらい、月額使用料もしくは広告料を支払ってもらうことで潤っています。
ただ、ブランドやメーカーは、ネットサービスに関しては素人です。
単独ではネット活用の効果が出ないことも多いです。
ただ、プラットフォーマー側としてはブランドにアカウントを継続してもらうために、一定の効果を感じてもらわないといけません。
つまり、システム開発やマーケティング支援のプレイヤーには、ブランドと二人三脚の体制で効果を出してもらうことが、プラットフォーマーにとって非常に重要になるということです。
このようにD2Cブランドが増加した背景には、
- 消費の多様化でブランドの収益性が低下した。
- ウェブ開発やマーケティング支援という新しいビジネスが登場した。
- グローバルメガプラットフォーマーの存在感が増した。
によって生まれた「時流の必然」があったと私は自身の経験を持って捉えています。
つまり、ブランドからの売上を肥やしとするプラットフォーマーやIT企業の戦略によって、デジタルトランスフォーメーションやD2Cビジネスへの誘導が盛んにおこなわれているというわけです。
まとめ
最後にこのシリーズの上巻の要点をまとめます。
- ネットが台頭し、直接ユーザと繋がる環境が整った
- ブランドはネット運営のノウハウが不足している
- ブランドを支援するIT企業が増加している
- それぞれが依存しあう構造が出来上がった
ネットビジネスになっても生産から消費のサプライチェーン構造の本質は変わりません。
その中でステークホルダーの性質が変わってきている事を感じてもらいたいと思います。
こうした背景や構造を理解していれば、これから話す本題もより本質的に捉えることができると思います。
もちろん、背景の切り口はこれだけではありませんが、考え方の1つとして理解してもらえると幸いです。
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