私が実践を通じて気づいたD2Cの成功パターンを公開
このテーマの締めくくりとして、私が実際に多くのスタートアップビジネスの投資分析や、小売業の構造改革を担当する中で実践してきた成功のポイントをまとめておきたいと思います。
↓前回と前々回の記事はこちら↓
[上巻] なぜD2Cは失敗するのか?|ブランドビジネスの落とし穴
[中巻] なぜD2Cは失敗するのか?|ブランドビジネスの落とし穴
この記事を読むことで、D2Cビジネスを成功させる共通項を知ることができるだけでなく、D2Cなどのバズワードに流されずにビジネスモデルの本質が理解できるようになります。
商流を捉えながらサプライチェーンの機能軸でD2Cを見ていくことで、ビジネスモデルの本質が見られるようになりますので、ぜひ最後まで読んでいただければと思います。
この記事の結論
- D2Cはビジネスモデルではなくブランディングとして捉える
- 自社のコアコンピタンスを明確に定義する
- 競争優位性が内製できそうもない領域はどんどん他社を活用する
- 消費者コストと自社コストのバランスを計算し、コストとニーズの収益性をきちんと評価する
それでは、進めていきます。
ブランディングとしてのD2C
個人的には「D2C」という言葉は単なる概念にすぎないと考えています。
直販だろうが小売への委託販売だろうが消費者=お客さまにとっては全く関係のないことです。
商売の本質を考えてみようと思います。
ビジネスモデルとは、刻々と変化する外部環境と消費者ニーズをすり合わせて1つの事業を成り立たせる構造のことなので、収益性とは関係がありません。
それなのにD2C=高収益と安易に考えてしまうこと自体が非常に危険なことだと思っています。
収益性とはあくまで収益構造の話であって、事業構造とは切り離して考えるべきだということです。
つまり、あくまで事業構造と収益性はそれぞれ独立して議論されるべきです。
例えば、牛丼チェーン店はビジネスモデルはどれもほとんど同じ構造ですが、各社収益性は様々ですよね。
吉野家は約2%、松屋は約5%、すき屋(ゼンショーHDS)は約3%となっています。(18年度実績を参照)
これと同様にD2Cビジネスでも事業の結果として得られる収益性は様々なわけなのです。
商材や対象顧客、内製化機能の精度など、複数の要因が重なり合って最終的な収益性が導かれるわけですから、D2C=高収益という視点でビジネスを展開することは非常に危険だと感じています。
ということは、D2Cというのは、あくまでブランディング(=マーケティング)というくらいで捉えて、あまり直販体制に囚われないことが重要ではないかと思ったわけです。
つまり、D2Cというビジネスモデルはそのままにして、収益モデルを別に考えることが重要なのではないでしょうか。
別に商業施設やマーケットプレイスに出店したっていいんです。
小売業者を活用して露出度や顧客接点を増やして、そこから流入した顧客がロイヤルカスタマーになった段階で自社販売チャネルに送客したって問題ありません。
D2Cはあくまで手段なわけで、お客様により良い購買体験を提供できれば良いわけです。
実際にD2Cブランドとしてスタートしたスタートアップもある一定のところで売上成長率が鈍化して、テナント出店を開放する例も多いです。
これは経営戦略として非常に柔軟で素晴らしいと思っています。
一方で、D2Cに固執することで直販に限定した戦術をああでもない、こうでもない、とやっている会社も多く見てきました。
小売業者を活用することで直販チャネルも強化されていくわけですから、積極的に使わない手はありません。
事業のコアコンピタンスは何か?
D2Cビジネスを構築する、つまりサプライチェーンの機能をすべて内製するとしたときに、究極的に言って何が自社のコアコンピタンスなのか?がはっきりしていないと、事業環境がグラついた時に限りある経営資源をどこに集中し、どこを切るべきかの判断がつかなくなります。
イメージしやすい問いを投げるなら、「お客さまは我々に何を求めているのか?」「商品の品質なのか?プライベートスペースでの接客なのか?」「自社社員の得意分野は商品開発なのか販売やマーケティングなのか?」でしょうか。
つまり、D2Cという構造に何を求めているのか?という経営戦略上のリソースを要素分解するべき、ということです。
生産分野が得意で商品開発に長けているのであれば、物流や販売促進に経営資源を奪われて、強みが半減してしまうことは避けたいわけです。
お店の世界観や会員サービスが魅力的だと顧客から思われている事業であれば、ブランディングや販促に強いわけなので、それ以外の機能を内製化しすぎて、顧客接点が薄まってしまうことは良くないのではないでしょうか。
つまり、サプライチェーンを自社で完結しようとしたときに、まず優先的に経営資源を使うべき領域は何なのか?を決めておく必要があると考えます。
これをせずにD2Cを推進していくと、必ず経営資源が分散してしまい、強みだった領域は弱体化していきます。
自社の強みを補完する形でその他の機能を構築していくバランス感覚が求められています。
外部リソースの活用の促進
複数の機能を内製するということは、コストが伴うという事実を理解する必要があります。
内製するメリットは「 内製化コスト − 外部委託コスト ≦ 0 」という方程式で表すことができます。
もしくは「内製化すると外部委託よりもコストは上がるが顧客満足度や付加価値は向上する」というケースでしょう。
前者では、例えばシステムでいうと「AWS(アマゾンウェブシステム)よりも高品質低価格に自社システムが構築可能かどうか。」という問いが分かりやすいと思います。
後者では、例えば人件費でいうと「派遣販売員ではなく自社雇用の販売員に切り替えることで接客の質は上がるのかどうか。」です。
このように②で説明した自社のコアコンピタンスと合わせて、内製する機能については競合と比較をして、どこまで優位性が築けるのか?をきちんと経営戦略レベルで語ると良いと考えます。
逆を言えば、投資効果は見込めないし、競争優位性も作れない、という領域に関してはすべて外部リソースを活用する戦略を取った方が良いということになります。
直販体制にこだわるあまり、自社の強みでもない機能を多額のコストをかけて内製化するのは愚策だと思っています。
仮に販売機能に商機がないのであれば、アマゾンや楽天、その他のマーケットプレイスなどを活用して、それ以外に投資をかける方が、顧客満足度は高まります。
コストバランスを保つ視点
結局はD2Cだろうが小売業者を介した委託販売だろうが、お客さまは自社商品をどのように買いたいか?経験したいか?につきます。
消費者は購入に至るプロセスで様々なコストを支払っています。
商品情報を検索する時間、商品を比較する時間、買いに行くための移動費、などです。
自社商品の性質とお客さまの買い方の双方から、本当にD2Cというコミュニケーションが最適なのか?を考えると視点がひとつ高くなり顧客視点での議論ができるでしょう。
ポイントは、どう売るか?を考える手前で、カスタマーサクセスを考えることです。
自社商品を通じてお客さまはどこに満足し、どこに負を感じるか、どういう購買の流れなら一番快適で、満足度が最大化されるのか?
このような視点で考えた上で、お客さまのメリットとD2Cにおけるメリットがコスト試算(財務効果)も含めて一番最適なのであれば結果D2Cに行き着く、というのが理想の流れだと思います。
つまり、まずは商品特性と対象の顧客属性、そしてその商品を扱う際の最も快適な購買環境をすり合わせることで、コストが最小化されるというわけです。
まとめ
最後に下巻の要点をまとめます。
- ビジネスモデルと収益モデルを分けて構築する
- その結果として小売業者を通すことになってもD2Cは成立する
- 経営資源を投資すべき機能を明確に決めておく
- 内製化しても優位性が築けなければ外部リソースを活用する
- D2Cありきではなく、商品特性と顧客属性、商環境から最適解を導く
事業経営というのは、成功失敗が読めないくらい説明変数、外部与件が多く存在します。
そのため、私の考察が的外れとなる事例も今後は多く出てくるはずです。
しかしながら、考え方の本質は変わらないと確信しています。
生産から購買までの機能の在り方は変わっても、その流れの要素それ自体は変わらないということです。
こうした記事を通じて、D2Cの構造を改めて考える人が増えて、成功するブランドが増えるきっかけになれば幸いです。
それでは、また!
[…] [下巻] なぜD2Cは失敗するのか?|ブランドビジネスの落とし穴 […]