部下が勝手に成果を出す仕組み作りのテクニック
めまぐるしく経営環境が変化する時代に突入し、権限委譲によるスピード経営が急務となってきました。
私は経営システム支援やプロジェクトマネジメントを主戦場にしてきて、権限委譲のうまい組織と下手な組織を多く見てきました。
また、自分自身が案件をリードする中で多くの失敗も経験してきました。
そんな私が実践を通じて「権限委譲したつもり病」から抜け出せたからこそ分かる、チームが成果を出すための具体的な権限委譲のコツについてまとめました。
この記事を読めば、即実践できる権限委譲のテクニックを体得できるだけでなく、労力をかけずに成果が出せる体質になっていただけると考えています。
ぜひ自分に置き換えて比較しながら読んでいただければと思います。
この記事のまとめ
- 部下が主体的に行動できているかが権限委譲の分かれ道
- 上司と同じ視点で部下も事業、案件を俯瞰できている状態を目指す
- 目的共有、実行プラン策定、経過観察、責任所在の明確化を徹底する
それでは、間違った権限委譲の例から進めていきます。
あなたの権限委譲は「ただの業務委託」
まずは成果がなかなか出なかった時代に私が実際に行っていた権限委譲についてですが、会議の資料作成を例に挙げてみます。
私:「Aさん、お願いがあります。現在のプロジェクトの進捗を再来週に開催される経営会議で報告することになったので、これまでの実績をまとめておいてほしいです。」
Aさん:「分かりました。作成にあたって前回報告した資料を拝見したいので共有してもらってもいいですか?また、こういう風に作成してほしいというのがあれば指示してください。」
私:「前回の資料は今メールしておきました。枠組みは前回の資料を反映すればいいです。それに加えて今回は、実績が出始めたことを強調してください。それと来週に一度MTGをセットして資料の仕上がりを確認しましょう。そこでまた修正があれば相談しましょう。基本的に作成の仕方は全て任せますので、自分なりの考えでまとめてもらって構いません。」
A:「分かりました。ではさっそく。」
このような形で「権限委譲した」と思っていました。
しかし、実際進めてみると想像していた成果物とはかけ離れ、何度もコミュニケーションをしながら、気付けば、グラフや表の立て付け、文言の修正までガッツリとサポートする形となってしまいました。
そもそも上司は権限委譲を誤解している
私がやっていたのは「権限の委譲」ではなく「業務の委託」に他なりません。
だからこそ部下は「上司が求めるものを如何に上出来に仕上げるか?」が目的となってしまっています。
これこそが大きな過ちです。
正しい権限委譲とは、部下がチームの目的達成に向かって主体的に考え判断し行動している状態でなければなりません。
今回の例で言えば、経営会議でプロジェクトの進捗報告をなぜするのか?すらも部下には伝えきれておらず、部下の行動を「資料作成」という限定された範囲に留めてしまっています。
上司が持つ視点や視野を部下が持てる状態には程遠いマネジメントでしょう。
なぜ権限委譲を誤認識してしまうのか?
昨今、権限委譲が注目されてきました。
「権限委譲こそ組織を強くする。」
「管理職の仕事は部下に権限委譲をすることだ。」
と管理職自らが声を高々に叫んでいます。
では、なぜ自覚があるにも関わらず、いざ実践となると手出し口出しになってしまうのでしょうか。
結論から言います。
ボトルネックは3つある考えています。
- 知らないことは悪の文化
- 失敗できない風土
- 情報を持ちたがる体質
①知らないことは悪の文化
デジタル以前のビジネス環境においては、役員や部長こそが事業を一番理解していた存在でした。
市場環境の変化がそれほどなかったため、事業構造は変わらず、その中で結果を出し続けてきたからこそ出世したわけですから、事業のことを誰よりも熟知していたわけです。
そうなると、知らないことが無い状態でいることが優秀だったということです。
組織で起こっていることはすべて上司の意思決定と指示が発信源となって動き出すというサイクルです。
となると、一度動かした業務はすべて上司である自分が目を光らせてきちんと前に進むように細かなチューニングをしていく必要がありました。
だからこそ部下の役割は、上司に対していかに正解な情報をインプットするか、上司からの指示をどれほど忠実に実行するか、でした。
役員からの質問にはすべて答えられるように準備しておく。
部長からの質問にはすべて答えられるように準備しておく。
課長からの質問には必ず、、。と、こういう負の連鎖が起きるわけです。
②失敗できない風土
市場環境の変化が緩やかだと業務内容と量はそれほど変わらずに推移します。
上司や先輩から引き継いだ業務を今まで以上に上手く熟すことがイコール成果となるわけです。
つまり、手段は変わらないわけですから、そもそも失敗することが想定されていません。
「なぜ前任者ができていたのに?」となるわけですから、失敗は許されないのは納得がいきます。
となれば、上司は部下が失敗しないようなマネジメント手法を導入するでしょう。
(マイクロマネジメントが代表例だと思いますが)、自分の成功体験に重ね合わせて部下の行動を細かく修正します。
これによって失敗の可能性を事前に潰しておくわけです。
③情報を持ちたがる体質
ここまで説明すれば、情報が価値になることはお分かりいただけるかと思います。
成功体験というのは、どうすると成功するのか?何をすると失敗するのか?を知っている状態のことですから、情報自体に価値があり、情報を保有することで人材価値の優位性が高まるという仕組みが機能するのは必然でしょう。
すると、組織の下に行くほど、情報を元に自ら考え行動することは難しく、言われたアクションを正確に熟すことしかできない環境が作られてしまうということです。
現在の役員や部長職ポジションを担う方々は、こうした環境で育ってきたわけで、部下として権限委譲を受けた経験もなければ、上司として権限委譲をする経験も不足している状態です。
権限委譲もテクニックですから、実践すればするほどに上手くなります。
大企業の役員や部長は権限委譲スキルにおいては言わば新入社員といったところだと思います。
では、ここからは、実際に権限委譲をどのように実施すると成果が出るサイクルを生み出せるのか?を説明していきたいと思います。
部下が勝手に成果を出す仕組み作りのテクニック
私が実践を通じて「権限委譲したつもり病」から抜け出せたからこそ分かる、チームが成果を出すための具体的な権限委譲のコツについてまとめました。
成果が出る権限委譲の5つのステップ
- 事業あるいは組織の目的を共有する
- 権限を委譲する意図を伝える
- 目標を達成した状態を共有する
- 実行プランの作成を依頼する
- 定例ミーティングを実施する
①事業あるいは組織の目的を共有する
当たり前のようですが、このコミュニケーションが欠落しているコトが非常に多いです。
ここでの目的とは、柔らかく言えば「そもそも私たちは何のために行動するのか?」ということです。
優秀な社員であれば、目的が正しく設計されていて、きちんと共有されていてれば、自走が可能です。
よくある失敗例は、目的が受け手の解釈によって如何様にも捉えられてしまうような抽象度の高い設定になっていることです。
例えば、経営理念であれば「人々の生活を豊かにする」、経営戦略で言えば「ビッグデータカンパニー」、部門目標でいえば、「意識変革と労働生産性を高める」などでしょうか。
もちろんあえて抽象度を上げてボトムアップによって出てきた成果物を正とすることを目的としているのであれば良いですが、それだとしても何を持って正とするのか?が予め定義されていなければ良し悪しの判断は付かないものです。
そんな目的を投げられても大抵の場合、各人の視点は定まらないため、着地点がバラバラになって終わりでしょう。
大切なことは、関係者全員が向かう先の世界を共通認識できているかです。
②権限を委譲する意図を伝える
これはモチベーションに関わるキーアクションです。
全社員が優秀であって、目的さえ明確化していれば、自発的に考え行動してくれるわけではありません。
社員あるいは部下からすれば、権限委譲というのはチャレンジングな環境に投げ込まれるようなものですから、その不安に打ち勝つ以上の大義名分が必要でしょう。
なぜあなたに権限を委譲するのか?を伝えることによって、心の支えができるわけです。
権限委譲の意図を伝える時に大切なのは、相手視点です。
「成長してほしい」とか「期待しているから」とか「会社の方向性だから」という想いはマネジメント側の一方的な思いに過ぎませんのでNGです。
権限を委譲する相手のパーソナリティに応じて伝え方を変えていくことが必要です。
出世意欲が強い人、チームを大事にする人、承認欲求が強い人、などパーソナリティはそれぞれ違います。
権限委譲が事業や組織にもたらす効果を淡々と伝えたところで相手には響きません。
いかに相手と本心で向き合えるかがモチベーションアップの鍵だということです。
③目的を達成した時の状態を共有する
目的に向かって行動した結果、どのような状態であれば成果が出たと言えるのでしょうか。
目標の具体化、状態の具体化がこのフェーズです。
例えば、収益ポートフォリオの安定性向上に向けて新規領域への投資原資の確保を目的として既存事業の収益性向上を目標に置いたとします。
収益性を1%向上させるのか5%なのか、どういう状態であれば収益性向上が実現したと言えるでしょうか。
達成状態を定義する際は、数値設定のように誰もが良し悪しの判断ができるような粒度を意識する必要があります。
④実行プランの作成を依頼する
準備と共有のステップが非常に重たかったと感じるかと思います。
ここまでやって始めてアクションの依頼をします。
ただ、「では、早速始めてくれ。進捗は定期的に共有してくれ。」はNGです。
移譲したとはいえ、その行動が確かに目標達成に向かっているかどうか、をマネジメントするのは経営陣あるいは上司の役割です。
権限を移譲したのであって責任を移譲したわけではありません。
そのため、走り出してもらう前に実行プランを練ってもらうことが成功確率を高めることになります。
例えば、誰を巻き込むべきか、どんな情報を集めるべきか、いつ誰が何を意思決定すべきか、制度やシステムの調整は必要か、など、何をアクションしないといけないのな?を洗い出し、スケジュール表にプロットしていきます。
そしてこの時に重要なポイントは進捗度合いをマイルストンとしてスケジュールに落とし込むことです。
業務を進めていく中でクリアすべき関門が定期的に訪れるはずです。
例えば、経営会議での承認、契約書の締結、システム開発の完了、必要人材の獲得、などです。
その関門のタイミングを想定しておくことで、遅延しているのか、前倒しで進んでいるのかの共通認識がもてるようになります。
次に重要なポイントは、予め阻害要因となる事案が想定されていて対策案がアクションに組み込まれているかどうかです。
大抵、業務が止まるのは「できない、分からない、難しい」という諦めです。
どう進めるかという発想が欠落し、何かに阻害されることで「やらない」が選択されてしまうのです。
だからこそ、そもそも起こりうる阻害要因をどう乗り越えるか?をアクションに落とし込んでおいてしまうことで、停滞リスクを回避しようというわけです。
⑤定例ミーティングを実施する
ここまで事前に設計されていれば、あとの推進はすべて任せて良いでしょう。
ただし、進捗するにつれて環境が変わり、想定外のことが頻発するでしょう。
原則はそのすべてをどう乗り越えるか、の判断は任せるべきです。
その上で、想定していたマイルストンに沿った進捗がなされているかはマネジメントすべきです。
加えて、現場だけで解決できないレベルの阻害要因が出現したときには、経営陣あるいは上司にどう解決してほしいかという行動プランを添えてもらった上で、部下からの依頼を受ける場を設ける必要があります。
このように定例ミーティングでは、目的に反れていないか?目標への進捗は順調か?超えるべき阻害要因は何か?を論点にすると良いでしょう。
多くの組織では、先週何をしたのか?どういうことが起きているのか?を逐一報告するケースが頻発しています。
しかし、このような「部下が何をしているのか?」の報告は不要です。
これから何をしなくてはいけないのか?という未来軸でのコミュニケーションを徹底しましょう。
まとめ
- 作業ではなく『目的と達成状態』を共有する
- 事前に進め方を計画してもらい論点のすり合わせをする
- 手段は自由に、管理は経過観察に徹する
- 責任はこちらが負う、それを伝える
いかがでしたでしょうか。
これで具体的な権限委譲のテクニックがお分かりいただけたかと思います。
是非ともさっそく明日から実践いただき、皆様のチームの性質に合わせて柔軟にカスタマイズしていただけると幸いです。
それでは、また!