戦略の効果を高めるための実践テクニックとは?
今回は経営戦略が機能しない本質的な要因について自身の実体験から解説していきます。
精巧に練られていても経営戦略がなぜか浸透しないという会社も多いと思います。
その要因は、戦略の実行フェーズに答えがあると私は考えています。
この記事を読むことで、機能する戦略を立案できるようになりますし、戦略を浸透させる際の注意点が理解できるので、経営管理スキルが身につきます。
戦略は『』も大事ですが『』も非常に重要となります。
戦略実行における失敗のポイントと成功のポイントを理解するためにもぜひ最後まで読んでいただければと思います。
この記事の結論
- 実行プランまで含めて戦略を管理する必要がある
- そのため実行者が行動できる粒度で作成する
- そして実行フェーズでは阻害要因を都度対処する
それでは、進めていきます。
いったい誰のための戦略か?
私はベンチャー企業と大企業それぞれの戦略立案プロセスを多く見てきました。
戦略立案というものは多くのケースにおいて、ごく一部の人間によって作成されていました。
それは、経営ボードメンバーと経営企画室担当者です。
もちろん、情報収集段階では、各部署とのコミュニケーションやデータ提供のやり取りは発生しています。
ただし、最終的に資料としてまとめ上げるのはごく一部のマネジメント層というわけです。
そして、完成された戦略資料は会社全体に共有されて、次にそれぞれの部門長が各部署ごとに予算や戦術を考えていきます。
部長未満の社員は戦略資料や部門計画を読み込み、具体的なアクションを取っていくわけですが、多くのケースで戦略の浸透がなかなかうまく行きません。
私が経験した例では、部長からも戦略に対する異議申し立てが出てくる始末で、戦略に対する拒否感が組織全体に蔓延してしまった、なんてこともありました。
飲み会で他社の知り合いと話していると、こうした経験をされている方が結構いらっしゃって、マネジメント層の深刻な課題なんだなと実感しました。
今回のまとめは、M&A後の企業統合プロセス、ベンチャー投資での経営へのハンズオン、事業収支改善プロジェクトを通じて、私が失敗と改善を重ねた実体験によって得られた具体的なテクニックです。
機能しない戦略の3つの要素
結論から言いますと、優れた戦略とは『結果として成果に繋がったかどうか』で判断すべきだと私は考えています。
そして、その点において機能しない戦略の共通点に気づきました。
- 戦略と実行プランとが連動していない
- 実行する担当者を主語に書かれていない
- リスクシナリオと対策が用意されていない
それぞれの組織が戦略を受けても適切に行動ができないのであれば、それは戦略として成り立ってはいません。
①戦略によって実行が規定され、②現場担当が行動可能な状態を作り、③阻害要因となる事象を極力排除する、ということに戦略の本質があると考えています。
①戦略と実行プランとが連動していない
戦略を実行するのはそれぞれの部署であり、その進捗を管理するのは部長です。
つまり、戦略が正しく実行されるためには部長に戦略ドリブンのアクションをしてもらう必要があります。
しかし、組織が大きくなればなるほど、部長レイヤーでさえも全社視点を持っていないものです。
それは経営で語られていることや他部署で起こっていること、をあまりよく知らないということです。
そんな状態の部長に実行権限を与えても戦略に沿った正確なアクションは取りにくいものです。
経営力のない人材を部長にするな、という極論
どんな組織においても不適切な人材配置は起きうるものです。
もちろん、最適な人材配置が根本的な課題解決になることは間違えありません。
しかしながら、経営というのは『あらゆる事象を確率論的に捉える』ことが重要であると考えています。
つまり、根本的な課題解決は実行しながらも、『不完全な組織』ありきで建設的に推進していく覚悟、が必要だということです。
『確率論的に』と表現したのは、「社員の20%が成果の80%を作る」というパレートの法則に従うということです。
今回の場合も、『外部環境と内部環境を経営視点で適切に捉えられているのは経営陣と経営企画室だけで、部長職でさえも全社視点は持ち得ないもの』だという割り切りをして、その状態すらもマネジメントをするべきであるということです。
実行のマネジメントまで含めて戦略を作る
そうであるならば、戦略立案は役員と経営企画室の仕事であり、実行は各部署の仕事である、と分断されてしまうことに違和感を覚えるはずです。
戦略と実行が連動している状態を維持し続けるために、役員と経営企画室は期中のモニタリングが不可欠となります。
多くの企業で、コーポレート部と営業部の距離が遠い、だとか、仲が悪い、という声を耳にしますが、健全なコミュニケーションができていない証拠ではないでしょうか。
全社員が戦略と実行に責任を持つ意識
概念論に収まるのは評論家のようで好きではありません。
しかしながら、組織が大きいほど戦略と実行が分断されてしまうのも現実なわけで、概念的であっても従業員の意識を変えることも必要だと考えます。
「コーポレート部門のやつは現場が見えていない」
「営業部門のやつは視野が狭い」
「あいつは経営視点がない」
という主観を捨てて、全社員が社長の眼と従業員の眼の両方を持つことを企業文化にしていくことが何よりも重要です。
それを体現するという意味においても、役員と経営企画室のメンバーが期中のモニタリング業務を主業務と認識すること、部長が戦略ドリブンで実行プランをデザインすること、の意識が持てると戦略と実行とが有機的に繋がるようになるはずです。
②実行する担当者を主語に書かれていない
「戦略はあくまでも方向性であって、実行は全社員が主体的に考えて行動するべき」と読み取れるほど抽象的に書かれた経営戦略資料をよく目にします。
しかしながら、全社員がその戦略を正しく理解し正確なアクションに移せるものでしょうか?
私の経験上、それはかなり難しいです。
むしろ実行の丸投げは『経営責任の放棄』に近い考えだと思っています。
もちろん、ビジネスモデルが今までと変わらずに、業務内容も前年踏襲の範囲に収まるならば、現場主体のボトムアップ経営は有効だと思います。
しかし、変化の激しい環境においては、事業構造の変革や業務内容の改善が必要不可欠です。
そのような組織において実行を現場に丸投げすれば、「環境の変化をどう捉えるか?」の解釈も社員それぞれで異なってしまいます。
結果として、実行の向かう先が部署ごとにバラバラになってしまう危険性があります。
実際に私も、抽象的な戦略が現場を混乱させているのを目の当たりにしてきました。
変革期であればあるほど、戦略というのは『やらないことを決める』要素が強くならないと、現場は正しく動けないのだろうと考えています。
で、わたしは何をすればいいの?
経営戦略の説明を受けた社員が、「自分が何を目指し行動すればいいのか?」が分からないという状況はよろしくありません。
例えばですが、『人口減少によって客数の増加は見込めないから、顧客満足度を高めて客単価を増やす方向に舵を切ろう』という戦略があったとします。
もちろん客単価を上げるアクションの工夫は現場で試行錯誤すべきだと思います。
しかしながら、事業として顧客満足度と客単価の相関をきちんと定義しておくべきではないでしょうか。
これ自体も現場に丸投げした時に起きうるのは『提供価値の相違』です。
顧客満足度と客単価の解釈がバラバラになれば打ち手も分散します。
顧客満足度向上のための施策の解釈(客単価向上の施策)
- 品揃えを高額商品に切り替える
- 関連商品をセット売りする
- リピート促進の割引還元をする
- 関連する新サービスを開発する
- 顧客を富裕層だけに絞る
- 無料サービスを有料化する
- 会員向けサービスを拡充する
このすべての施策に十分なリソースを投資できるのであれば、何も言うことはありません。
ただし、果たして事業はそんなに上手くいくのでしょうか。
『お客さまに何を一番に提供するのか?』という事業としての軸が必要だと考えます。
実行する担当者を主語にするとは?
打ち手のアイデアが現場主導で洗練されていくのは、非常に大切です。
そのためにも事業としての軸を設けることで、現場は動きやすくなります。
軸とは即ち『指標=KPI』のことです。
それぞれの部署がどのKPIを追うのか?を戦略上で明示することが重要だと考えています。
このKPIがうまく設計されていることによって、戦略を受け取る社員は自分の目指す先を具体的にイメージすることができるようになると考えています。
先程の例で考えてみたいと思います。(※小売店をイメージしています)
戦略
『ある顧客満足度の向上によって客単価を引き上げる』
顧客満足度を図る指標
- 平均滞在時間を○%増やす
- 年間来店○回以上の顧客を○%増やす
- アプリのアクセス回数を○%増やす
指標と客単価の相関の裏付け
- 滞在時間に比例して買上点数が増加している
- 年間○回以上利用する顧客の買上単価は平均客の単価の○倍
- 会員アプリを頻繁に閲覧する顧客の単価は平均客単価の○倍
ここでは因数分解はあまりせずにザックリと指標を書きましたが、実際には、この更に細かいドライバーの分解が必要です。
ロジックツリーと呼ばれる売上に寄与する要素を最小単位まで分解したものをドライバーと呼びます。
その中でも特に注力すべきドライバーをバリュードライバーとかキードライバーと呼んだりします。
客単価が上がる要素や指標が、その事業に即して整理されている状態まで落とし込まれていれば、各部署がどの指標を追うべきか、が明確になります。
つまりこれが『担当者の実行が主語になった状態』と言えるわけです。
KPIの作成は誰がやるのか?
この経営に重要な指標の作成というのは非常に重たい作業になります。
私は実際にベンチャー経営の支援をした際に、実際に手を動かして痛感しました。
組織規模が拡大するほどに、この作業を役員、経営企画室のメンバーだけで書ききるのは相当な労力を要することでしょう。
私が所属する組織は従業員を1万人以上抱えています。この規模にまでなると、もはや不可能なように感じます。
もちろん経営に近しいKPIの設計は可能ですが、事業部ごとに細かく設定することが難しいということです。
そこで、このKPIの骨組みまでは経営レベルで確定した上で、そこからの細かい指標作りは執行役員や部門長とのコミュニケーションによって作成するプロセスが現実的のように感じます。
経営が目指したいコトと現場担当長が実行したいコトを摺り合わせながら、ロジックツリーを作成していく。
そうすることで実行主体者(現場)が主語になったKPIが完成します。
ちなみにですが、各部署が作成した年度計画を取りまとめて戦略資料を作成するような会社もあります。
その場合でも、前提となるKPIの骨組みはトップダウンでコミュニケーションすべきですし、各部署の年間計画には具体的な指標が設計されている必要があります。
ただただ方向性とアクションだけが精緻に書かれているだけでは、何を持って目標を達成したか、が不明確になってしまいます。
そうした計画では、成果の解釈は現場の都合の良いように書き換えられてしまいます。
私の会社でも、年度を振り返った時に各部署からは「成果は出ている」と報告がある一方で、財務上の成果はまるで出ていない、という現象が実際に起きています。
③ リスクシナリオと対策が用意されていない
続きの記事≪下巻≫、作成中。