経営/ビジネス

㊦戦略が機能しないのは『計画の精度』ではなく『実務担当者の実行力』が原因

ダメな戦略、デキる戦略②

話を③へ進めていきます。

  1. 戦略と実行プランとが連動していない
  2. 実行する担当者を主語に書かれていない
  3. リスクシナリオと対策が用意されていない

③ リスクシナリオと対策が用意されていない

二の矢三の矢の用意と言っても良いかもしれません。

「戦略はどうせうまく行かない」という認識を持つことが重要です。

環境変化が激しい時代では、計画段階では想定もしない事態がよく起こります。

更に『構造を変える』『新しい業務を導入する』など、これから始めるコトに対しては組織内に知見が存在しません。

そのため、起こりうるリスクを事前に読むことはかなり難しいです。

こうした状態に対して、決められた戦略の初志貫徹はかなり危険、だと感じるのは私だけではないと思います。

常に複数シナリオを想定し、柔軟に対処できる体制を整えることも戦略立案には必要不可欠だと考えます。

治外法権を使う覚悟を持つ

「複数シナリオを想定する」というのは『起こりうる事態を予測する』ことではありません。

何が起こるか分からない状況で『何が起きても対策が打てる体制を整えておく』ということです。

もちろん、何が起こるか分からないとはいえ、『起こりうる要素』というものはある程度分類することが可能です。

事業のリソースというのは、大きくヒト・モノ・カネに分類が可能です。

実行段階に起きうる事態もまた、このヒト・モノ・カネのどれかに当てはまります。

ヒトの問題

『期中に要員不足が発生した』

『従来制度の成果評価では規定できない』

 

モノの問題

『既存設備や立地条件に欠陥があった』

 

カネの問題

『管理会計予算が既存の仕組みでは機能しない』

戦略を進める過程において発生した阻害要因に対しては既存の仕組みでは対処できないことが多いです。

つまり、個別の部署では対応が難しい課題を既存の意思決定プロセスの外で迅速に判断していく意識と体制作りというのが不可欠となります。

もちろん、予め認識できる不足リソースや顕在化した課題に対しては先手を打つべきで、戦略の共有段階で実務担当者には事前に共有しておく必要があります。

そんなわけで私の経験上、戦略というのは常に阻害要因との戦いになります。

ですから、このリスクシナリオを計画の段階で認識し事前策を講じることができるか、そして、予期せぬ阻害要因が起きても柔軟に対処できるかが重要だと考えています。

実務担当者の実行力が原因?

ここまで説明してきた『3つの要素』がそもそもなぜ起こりうるのでしょうか?

  1. 戦略と実行プランとが連動していない
  2. 実行する担当者を主語に書かれていない
  3. リスクシナリオと対策が用意されていない

様々な解釈ができると思いますが、『管理職の経営力不足』がひとつの原因だというのが私の自論です。

これについては多くの企業で起こっていると認識していますが『従業員がキャリアアップする過程に経営リテラシーを身につける機会が不足している』ことが本質的な要因ではないかと考えます。

経営力とは本来ひとつのスキル分野であり、現場で優秀だったからといって経営力にも優れているとはなりません。

そして、役員でなくとも管理職レイヤー(部門長など)であれば経営力が備わっていて然るべきです。

経営視点を持った上で、組織の一部の権限を持つことではじめて全社最適のアクションが取れるのだと考えています。

この意味において『部門長=実務担当者の実行力不足』と表現したわけです。

つまり、経営スキルを有しモチベーションに主体性を持てているか、という視点で見ると、やはり多くの場合、期待値には遠く及ばないように感じます。

だからこそ、これまでに紹介してきた「機能しない戦略の要素」について経営ボードメンバーと経営企画室担当は、その実態をよく認識し、この課題を自分ごと化する必要があります。

その課題すらも戦略の一部として組み込んでマネジメントしていくことを主業務するべきだと考えます。

機能する戦略の実践テクニック

というわけで、機能しない戦略を以下の『3つの要素』で説明しました。

  1. 戦略と実行プランとが連動していない
  2. 実行する担当者を主語に書かれていない
  3. リスクシナリオと対策が用意されていない

このそれぞれを認識した上で、『機能する戦略』を実践としてどのようにマネジメントするのか、に話を移したいと思います。

3つの論点と12のテクニック

  • 戦略実行に必要な要件の整理
    ① キーマンの選定
    ② 重要評価指標の設定
    ③ データの集計環境の整備
    ④ モニタリング機能の設置
  • 担当者の合意と自分ごと化
    ⑤ 戦略の共有
    ⑥ 意見の収集
    ⑦ 疑問の解消
    ⑧ 合意形成
  • 不足するリソースの確保と対応
    ⑨ 阻害要因の要素の把握
    ⑩ 初期的対応策
    ⑪ 不測の事態への対処
    ⑫ 対処のための体制作り

これ以外にも共有したいテクニックはありますが、まずは戦略実行の走り出しのフェーズに焦点を当ててお伝えできればと思います。

戦略実行に必要な要件の整理

戦略が正しく実行されるためには、4つのポイントを押さえておくと効果的です。

① キーマンの選定

重要なポストにはバイネーム人事が不可欠です。

マーケティングチームの上長が営業しか経験がないとなれば、実行の精度はかなり落ちます。

当たり前のことのように思うかと思いますが、大企業では当たり前のようにそうしたデタラメ人事が横行しています。

通常のジョブローテーション制度から抜け出せていなかったり、現場での優秀人材の出世ポストになっている、みたいなことを多く目にしてきました。

キーマンの選定は必ず既存人事から切り離してバイネームで実施すべきです。

② 重要評価指標の設定

KPIが設けれていないケースも多々あります。

売上や利益は結果であって、実行レベルでは中間指標を目指す必要があります。

コンバージョンレートや会員獲得数、リーチ数のような指標の中で、経営としてどの指標を重視するのか?を事前に確定しておくことが重要です。

これがないと各人の業務がどの収益レバーにヒットしているのか?が不明確になり、頑張っていたけど結局成果は見えなかった、なんてことになりかねません。

必ず成果を評価する指標を経営レベルで決めておくことを徹底すべきです。

③ データの集計環境の整備

KPIを設定したけど、データが取れないので実績が分からない、ということが発生します。

私の経験でも、既存の管理会計システムでは集計できない利益や、そもそも計測していない指標がかなり存在していました。

例えば、店別には費用計上しているが、さらに細かいプロモーション別には費用分配していないので、プロモーションごとの利益計算はできない、みたいなことです。

こうなってはKPIも絵に描いた餅です。

理想なのはその指標がトラッキングできるようにシステム改修を行ったり、新しくシステムを導入することです。

しかし、初期投資コストがかかってきてしまうのでなかなか難しいことも多いです。

その場合は、代理指標を用いることをお勧めします。

予め計算式を作って取得可能なデータの組み合わせでKPIを評価する方法です。

正しくは計測できないけれど、相関の強い代理指標であれば、かなり近しい評価が可能です。

④ モニタリング機能の設置

1つは予算管理を徹底して数値計画のブレを見ていきます。

毎月実施することで予期せぬコスト増や売上増加に対して速やかに要因を特定することが可能です。

ただ、この予実管理は結構どの企業でもやっていることが多いと思います。

より効果的なモニタリングをしたい場合は、実行プランの進捗を確認する機能を追加することをお勧めしたいです。

各部署、各チームにあらかじめ戦略を反映した実行プランを作成してもらいます。

四半期ベースや月ベースでマイルストンを設定し、スケジュール表にアクションを配置します。

これをモニタリングすることで、実行プランの進捗を『計画通り』『遅延あり』『中断』というステータスで追うことができます

『遅延あり』『中断』ステータスとなった部署に対しては経営管理チームがサポートし、阻害要因を特定、部署単体で解消できないレベルであれば、すぐさま経営層に上げて解決策を練り上げます。

このように戦略に従った実行プランをセントラルで管理することで、モニタリング精度を高める事が出来ます。

担当者の合意と自分ごと化

実行者が戦略を腹落ちさせて主体的に取り組まない限り、戦略が現場に降りることは絶対にありません。

いかに実行者の納得感を醸成できるかがポイントになります。

⑤ 戦略の共有

まず、素直に戦略を共有する機会を設けます。

ポータルサイトに上げるだけで社員からアクセスしないと見ないような通達のやり方は論外です。

必ず強制的に全社員が戦略を知る機会を作る必要があります。

更に、社長や役員が自ら発信することが望ましいです。

経営者に覚悟があるのかどうかを従業員はよく見ています。

私の経験では、どんなに戦略が優れていても経営者の覚悟が伝わらない組織では、従業員が本気になっていません

逆に、戦略がないに等しいレベルでも経営者が自分の言葉で発信していて、従業員に覚悟を見せている組織では従業員が本気でチャレンジをしていました。

つまり、戦略を共有する過程で、必ずトップの熱意と覚悟を伝えることから戦略は始まるというのが自論です。

⑥ 意見の収集

戦略を発信したままではNGだと考えています。

戦略の受け取り方は人それぞれですので、戦略の言いっぱなし状態を放置すれば、休憩所で『経営と戦略の悪口』が横行するだけでしょう。

特にキーマンに対してはダイレクトインタビューによって戦略に対する腹落ちをしてもらうまで対話を続けるべきです。

最近はオンラインアンケートが簡単に作成できるので、まずはアンケート必須にして全社員から意見を集計したいところです。

その上で、キーマンに対しては個別に機会を設けて疑問の解消に努めます。

⑦ 疑問の解消

疑問の解消でのポイントは、実行者の意見を戦略に反映することです。

自分が作った戦略ほど責任感と主体性を持ってくれやすいものです。

だからこそ、徹底的に議論を重ねた上で、戦略に組み込むべきポイントを整理したら、実行者の意見は必ず戦略資料に反映させます

更に、社員から集めた意見に対してはQ&Aを作成して、必ずフィードバックします。

このように数か月のコミュニケーションを通じて戦略の理解と納得性を高めていきます。

⑧ 合意形成

更に意見は言いっぱなしにはさせないようにします。

意見を反映した戦略資料やQ&Aを再度発信して、納得してもらったら、改めてアンケート調査などで戦略の理解度と納得度を評価します。

キーマンに対してはもちろん個別で戦略の合意を取り付けます。

トップダウンで降りてきた戦略ではなく、自分が参加して作った戦略という立て付けを必ず取るべきだと考えています。

ほとんどの企業では、戦略共有は一方通行で終わっているはずです。

現場の小さな意見をすべて拾って戦略に入れ込め、というわけではありません。

経営が現場の声を尊重しているという姿勢を見せることが重要なんだと感じています。

不足するリソースの確保と対応

あるべき姿から逆算して戦略を策定した場合、多くは既存のリソースだけでは実行が難しい状況だと思われます。

予め必要なのに不足しているリソースが特定できているのであれば事前に手を打ち、予測できないものは柔軟に対処できる環境を整えておく必要があります。

⑨ 阻害要因の要素の把握

人材、システム、組織、資金、制度、に大別できる戦略の阻害要因をあらかじめ認識しておきます。

例えば、弊社の例で言えば、

私の会社はリアル店舗主軸の小売業です。

人材

リアル店舗ビジネスからEコマースへの移行に際してデジタル人材が不足

役員、管理職、実務者の各レイヤーにプロフェッショナルを登用する必要がある。

システム

デジタル上の顧客IDを基軸としたCMS(顧客管理システム)とそれに連動するMA(マーケティングオートメーション)が未整備。

基幹システムは古くつなぎ込みが難しいため新たにシステム開発が必要

組織

リアル店舗の権限が強い設計でEコマース領域やデジタルマーケティング機能に全社最適性と戦略決定の権限が付与されていない。

戦略部門にデジタル権限を強化する必要がある。

資金

店舗の大規模修繕・リブランディング投資に比重が置かれ、システム開発や戦略人事への投資額が少ない

デジタル移行分野への選択と投資が必要。

制度

年功序列が強く若手のデジタル人材の早期抜擢ができていない。

戦略領域の部署までもが既存のジョブローテーション制が適用されて、戦略的に人材配置がなされていない。

戦略領域=デジタルに関しては、管理職と実務者双方に戦略人事を適用する必要がある。

このように戦略を遂行する上で、不足するリソースを認識して、事前に戦略に実行計画として組み込むことで対処していくと効果的です。

⑩ 初期的対応策

とはいえ、不足するリソースはすぐに補えるものと数年かける必要があるものとに分かれます。

すべてが揃うまで何もしないなんてことはあり得ませんから、動きながら補っていく必要があります。

例えば、新しく事業成果を評価する指標を導入したいが現況の管理会計システムでは対応できないなど、未整備な状態が続くことがあります。

そうした場合は、代理指標で補うなどの初期的な対応が効果的です。

また、私の経験上、スモールスタートを意識することでうまくスタートすることができます。

例えば、組織変更までの数カ月はプロジェクトとして部署横断チームを役員に付けて進めるとか、外部委託を活用してマーケティング人材を獲得するまで既存人材で対応するなどです。

⑪ 不測の事態への対処

多くの場合、戦略を推進していくと発見される不足のリソースもあったりします。

例えば、私の過去の経験で言えば、人事評価制度の例があります。

新しい戦略では、売上評価よりも顧客との関係性つまりロイヤルティや継続利用期間などの評価が不可欠になります。

しかし、従来の評価制度では、売上評価の性質が強く、従業員の営業方針がCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)に向かなかったため、戦略の実行にブレーキがかかりました。

こうした不測の事態に対して、いち早く修正をかけられるかが非常に重要になります。

⑫ 対処のための体制作り

不測の事態に対応するためには、既存の制度の枠組みからはみ出して、経営陣と二人三脚で阻害要因を解消する体制を予め構築する必要があります。

つまり、「戦略の実行フェーズで発見された課題は特別なルートでスピーディーに意思決定しましょうね。」と経営陣と握っておくことが効果的です。

とはいえ、ガバナンスを無視して治外法権的に意思決定してトップダウンで変えていくという話ではありません。

既存の部門内意思決定➡部門間合意➡経営会議での審議➡取締役会での承認、みたいなことをやっていたら時間が掛かり過ぎてしまいます。

私の経験上、戦略領域の執行役員と経営陣が参加する戦略推進会議なるものを別に走らせるのは効果的でした。

まとめ

最後にこの記事の要点をまとめます。

要点まとめ
  • 戦略は実務者の実行力までも加味した設計が必要
  • 実行フェーズを想定して現場の視点で作り上げる
  • 一方通行の発信ではなく、双方向の対話を意識する
  • 戦略実行の阻害要因は予め戦略に組み込む
  • 戦略的に意思決定すべきことは既存のシステムには乗せない
  • そもそも計画通りにいかないつもりで推進する
  • だから戦略と実行と修正は三位一体でマネジメントする

以上です。

それでは、また!

 

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です